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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(オ)585号 判決 1972年11月09日

亡鎌田惣次郎相続財産管理人

上告人

鎌田秀雄

右訴訟代理人

中林裕一

被上告人

野口運次郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中林裕一の上告理由一について。

民法九三六条一項の規定により相続財産管理人が選任された場合には、同人が相続財産全部について管理・清算をすることができるのであるが、この場合でも、相続人が相続財産の帰属主体であることは単純承認の場合と異なることはなく、また、同条二項は、相続財産管理人の管理・清算が「相続人のために、これに代わつて」行なわれる旨を規定しているのであるから、前記の相続財産管理人は、相続人全員の法定代理人として、相続財産につき管理・清算を行なうものというべきである。したがつて、相続人は、同条一項の相続財産管理人が選任された場合であつても、相続財産に関する訴訟につき、当事者適格を有し、前記の相続財産管理人は、その法定代理人として訴訟に関与するものであつて、相続財産管理人の資格では当事者適格を有しないと解するのを相当とする。論旨引用の当庁昭和四三年(オ)第四三五号同年一二月一七日第三小法廷判決(裁判集民事九三号六五九頁)も右と同旨の見解を前提とするものと解せちれる。それ故、上告人が相続財産管理人たる資格において提起した本件訴につき、同人に当事者適格がないとした原審の判断は、正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同二について。

本件記録によれば、上告人は亡鎌田惣次郎の相続財産管理人であるとの資格のみをもつて、当事者として、訴を提起したことが明らかであり、本件訴訟の経緯に鑑みれば、原審に所論の釈明義務があるとすることはできない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用しがたい。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(岩田誠 大隅健一郎 藤林益三 下田武三 岸盛一)

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